
Johan Cruyff Institute(ヨハンクライフ大学)のMaster for Sport Businessコースで学んでいる「スポンサーシップ」の講義について投稿していきます。
スポーツにとって「スポンサー」からの収入は大きなシェアを占めています。
テレビの放映権料がほとんどないマイナースポーツ、アマチュアスポーツ、スポーツイベントであれば、さらにその依存度は高くなります。
スポンサー収入を得られなければ、スポーツ施設の充実、選手の強化、大会の運営を続けていくことは不可能です。
スポーツには、人を夢中にさせ、感動させ、人と人を繋げ、気持ちを一つにし、人を成長させる大きな力があります。
その価値を改めて評価し、認識し、高め、正しく伝えることによって、どんなスポーツや組織でもスポンサーを呼び込むことができるという仮説を持っています。
スポーツへのスポンサーシップは単なる広告や単なるお願いでは長く続きません。
スポンサーシップは企業の戦略に沿い、企業の目的を達成できなければなりません。
スポーツにとっては、スポンサーとのコミュニケーションが重要だし、何が出来るのか、どうやって貢献できるのかを考えることが大事です。
その結果、Win-Winの関係を築くことができれば、継続的にサポートを得られるのではと考えています。
現実はそんなに甘くないかもしれませんが、これからの私のチャレンジです。
「スポンサーシップビジネス」を学ぶことは、ヨハンクライフ大学に入ったことの大きな目的の一つでした。
講義の学びをこのブログを通じてアウトプットして、シェアすると共に自分自身の血肉にしていきたいと考えています。
いろいろな事例や考え方、欧州の最前線のスポンサーシップの実態を学び、日本に持ち帰えることが目標です。
==目次==
- 1. 「スポンサーシップ」の講義
- 2. スポーツスポンサーシップとは
- 3. なぜ企業はスポーツのスポンサーになるのか
- 3.1 2017年のCLバルサ対PSGの大逆転劇の事例(パッションとエモーション)
- 3.2 FC Barcelonaと楽天の事例(アクティベーションの失敗)
- 3.3 FC BarcelonaとSpotifyの事例(ライバルとの差異化によるポジションキープ)
- 3.4 マクドナルドとオリンピックの事例(ブランドイメージの変更)
- 3.5 イベルドローラとスペイン女子スポーツリーグの事例(決定権限者へのアピール+CSR+イメージアップ)
- 3.6 Girona FCとGosbi の事例(CSR+地元企業)
- 3.7 P&Gとオリンピック(ブランドイメージと忠誠心の向上)
- 3.8 Real MadridとNiveaの事例 (ブランドイメージの変更)
- 3.9 UTMBとDACIAの事例(ブランドイメージの変更)
- 4. スポーツにとってのスポンサーシップの重要性
1. 「スポンサーシップ」の講義
1.1 講師
Aran Navarro Ferri氏
スペインのサッカーリーグ、La Ligaの一部に所属しているGirona FCのCommercial & Marketing Directorです。
イニエスタの個人マネージャーやイニエスタの企業でマーケティングも担当していた経験があるナイスガイです。

1.2 Girona FCについて
Girona FCはスペイン・カタルーニャ州ジローナ県にあるプロサッカークラブで、City Footballグループの一員になっています。
City Footballグループは、英国のManchester City FCを筆頭に、日本では横浜F・マリノスもグループの傘下に入っています。
1930年に設立され、現在スペインのサッカーリーグLa Ligaの一部に所属しています。
2022/2023シーズンに4シーズンぶり2度目の一部に昇格を果たしました。
一部2年目となる2023/2024シーズンは2位の成績を収め、2024/2025シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を獲得。
過去には5部まで落ちたことがあるクラブですが、ここ数年でクラブがおかれた環境や収入は激変しました。
Aranは2017年7月からGirona FCで働いていますが、彼が果たした役割は非常に大きく、スポンサーとの関係も変わってきているようです。
1.3 講義の全体像
講義は全部で8回。1回あたりの授業時間は2時間20分なので、合計1,120分(18時間40分)あります。
6つの項目に分けて講義が行われていく予定です。
① Basics of Partnerships(スポンサーとのパートナーシップの基本)
② Strategic Planning(スポンサーシップ戦略の作成)
③ Selling Products(何を売りにするか)
④ Sponsorship Activation(スポンサーシップとの協働プロジェクト)
⑤ Measurement and Reporting(スポンサーシップの評価計測と共有)
⑥ Customer Loyalty and Renewal(スポンサーとの
1.4 講義の評価方法
本科目の評価は、講義への出席や個人またはチームでの課題(レポート、ケーススタディなど)、最終テストを通じて行われ、50/100以上で合格となります。
2. スポーツスポンサーシップとは
Brand(ブランド自身、商品、サービスなど)と、
Property(クラブ、大会、イベント、アスリート、施設など)との間で
Association(合意、取引、アクティベーション、お金、価値、視認性など)を生み出すこと
BrandとProperty、それぞれの狙いや背景があります。
お互いにお互いの価値や資産を活用し合うパートナシップによって、ビジネスを発展させてWin-Winの関係を築くことがスポーツにおけるスポンサーシップです。
Propertyは、金銭的または物質的な経済的対価(製品やサービス、飲食物など)と引き換えにBrandを宣伝します。

2.1 FC25とベリンガムの事例(アクティベーション)
べリンガムは、数ある選手の中からFC25のメインキャラクターに選ばれました。
この契約ではレアルマドリードとベリンガムが巨額のスポンサーフィーを受取っています。
レアルもフィーの受取っているのは、ベリンガムをキャラクターにするにはレアルの許可が必要なためです。
ベリンガムはFC25の各種イベントにも出席する(アクティベーション)契約になっており、広告塔としての役割を果たします。
したがって、単なる「肖像権とフィーの交換」という契約ではありません。
一方で、この事例ではAdidasとEmiratesにもメリットがありますね。
両社の資金負担はないけども、露出が大きく、ブランドのイメージアップに繋がっています。
両社にとっては、こういった副次的な効果が得られることもレアルのスポンサーになっている理由でもあります。
スポンサーシップは
・慈善事業ではなく、商業的な目的がある
・単なる広告にとどまらない(単なるロゴの表示の対価として、フィー支払うのではない)
・質と量の両面において重要な戦略がある(ブランドの個性をアピールし、売上を伸ばすことにに繋がるため)

2.2 チャンピオンズリーグの事例 (スポンサーの取扱いや活動)
サッカーのチャンピオンズリーグでは、8社がオフィシャルスポンサーになっています。
ここでは1業種1企業が基本的な考え方です。
各社はメディア等への露出や広告は平等に取り扱われ、それぞれ同額のスポンサーフィー(年間35百万ユーロ(約55億円))を支払っています。

一方、個別のアクティベーションも可能で、その際は追加のフィー支払が必要になる契約です。
例えば、以下のような、試合前後やハーフタイム中のCMなどがあります。

また、2023年の決勝はトルコ・イスタンブールで行われましたが、これもトルコ航空とUEFAのアクティベーションの一環です。
3. なぜ企業はスポーツのスポンサーになるのか
企業やブランドがスポーツのスポンサーになるとき、明確な目的があります。
スポンサーフィーは「投資」であって、目的としての「リターン」を求めます。
スポンサーシップは企業全体に影響を与える一つの取引ツールです。
「投資」は企業全体の経営戦略⇒マーケティング戦略⇒コミュニケーション戦略に沿っているべきもので、
それと同時に、
企業のポジショニング、マーケティング戦略、コミュニケーション戦略に影響を与える「リターン」を得ることが目的となります。
ここでいうリターンには様々なものがあり、以下のように分類されます。

Brand(ブランド)
ブランドへの忠誠心向上
ブランドの認知度向上
ブランドイメージの変更や強化
ブランド価値の伝達
メディアでの再露出
(看板が名シーンに映り込めば、その後何十年もそのシーンが流される)
Business(ビジネス)
売上増加
顧客を楽しませる
ディーラーの関心を高めて、やる気を引き出す
グッズや限定商品の販売
競合他社との差異化
Soscial(社会)
ブランドの魅力通じて才能ある人材の活用
SCR(企業の社会的責任)
Property(クラブ・大会・イベントなど)の大小を問わず、スポーツはコミュニティやファミリーを作り出すことができます。
企業やブランドはそのファミリーの一員になりたいと考えるのです。
起業やブランドとPropertyのパートナーシップは、マーケティングに基づきます。
Propertyにとっては、ブランドが何を求めているのか、ブランドにどんな付加価値をもたらすことができるか、を考えることがスタートします。
3.1 2017年のCLバルサ対PSGの大逆転劇の事例(パッションとエモーション)
この日バルセロナは初めて地震を記録したといいます。
原因はFC Barcelonaのホームスタジアム「カンプ・ノウ」で大逆転劇が起こり人々の感情が大爆発したからです。
チャンピオンズリーグ ラウンド16の第一戦、パリでのアウェーでバルサは0-4で敗れました。
バルサが準々決勝に進むためには第二戦のホームで、5点以上の点差で勝つ必要がありました。
結果は6-1でバルサの勝利。バルサの6点目は後半ロスタイムの90+5分でした。
これほどまでのパッション(情熱)とエモーション(感情)を作り出せるのはスポーツしかない、
これが企業やブランドがスポーツにスポンサーをする理由です。
バルサの6点目は3:30ごろ
3.2 FC Barcelonaと楽天の事例(アクティベーションの失敗)
楽天は FC Barcelona のメインスポンサーとして、4年間で200百万ユーロ(300億円)以上を投資しました。
これは成功とは言えない事例と捉えられています。
楽天は巨額のスポンサーフィーを払っただけで、ほとんどアクティベーションを行わなかったそうです。
400万人のバルサのソシオ(会員)対象に、ストリーミングサービスを販売することを目的としていましたが、ソシオへのアプローチがありませんでした。
「楽天」の名前自体の認知度は上がりましたが、残念ながら楽天がどんな事業をやっているかは伝わりませんでした。

3.3 FC BarcelonaとSpotifyの事例(ライバルとの差異化によるポジションキープ)
FC Barcelonaのスポンサーになる前からSpotifyの知名度は高く、世界中で利用されていました。
したがって、このスポンサーシップによるプラスアルファの会員獲得はそれほど見込めず、ビジネス的には意味が見い出しにくい事例です。
それにも関わらず、Spontifyは巨額のサポンサーフィーを支払ってスポンサーになりました。
マーケットでのポジションをキープすることが一つの目的と思われます。
Amazon Music、Apple Musicが急成長している中で、ライバルとの差異化が狙いとなっています。
あとはアフリカなど、これまで開拓しきれていなかったマーケットでの知名度向上も目的と考えられます。
Spotifyのオーナーがバルサファンであるのも大きな要因です(これが一番?)。

3.4 マクドナルドとオリンピックの事例(ブランドイメージの変更)
マクドナルドは1976~2017年まで40年以上オリンピックのスポンサーでした。
マクドナルドはジャンクフードを販売しており、スポーツの健康のイメージやアスリートの食事としては不適格です。
が、なぜこのパートナーシップが生まれ、長期間に渡って継続されたか。
ブランドイメージ(Perception)を変えることが狙いでした。
オリンピックのスポンサーになったことにより、マクドナルドの認知度は上がり、イメージを大きく変えたといわれています。
これは、決してベストプラクティスとはいえませんが、スポンサービジネスの実態でもあります。

3.5 イベルドローラとスペイン女子スポーツリーグの事例(決定権限者へのアピール+CSR+イメージアップ)
イベルドローラはスペインの最大手電力会社ですが、約10年前に女子サッカーリーグのスポンサーになりました。
背景は、家庭の中で電力会社を決めるのは女性という市場調査に基づき、Decision Maker(決定権限者)にアピールすること、女性を応援することによるCSR(社会的責任;Corporate Social Responsibility)やイメージアップの観点もあります。
今はイベルドローラはあらゆる競技の女子リーグのスポンサーになっています。
もちろんホッケー女子1部リーグも!
非常に分かりやすく、明確な目的がある好事例ではないかと思います。


3.6 Girona FCとGosbi の事例(CSR+地元企業)
Gosbi はGirona FCと同じジローナ県フィゲーレス(ダリの故郷)のペットフード会社です。
地元企業であったことから2021~2024年の3年間Girona FCのメインスポンサーとなりました。
Girona FCはクラブ公式犬を任命し、動物もクラブ会員として受け入れる(1500匹)などのアクティベーションを行いました。
また様々な動物愛護のCSR活動を実施しました。
その結果、Girona FCは世界で最もペットフレンドリーなクラブになりました。
Girona FCとGosbiのスポンサー契約は2024に終了しましたが、今でも両者の関係は良好で、引き続き動物も会員ステータスを維持しています。
地元企業がスポンサーにつくのは最もよくある事例ですね。
マイナー競技やイベントになればなるほど、地元企業の割合が大きくなっています。


3.7 P&Gとオリンピック(ブランドイメージと忠誠心の向上)
P&Gは2010年バンクーバー五輪で、パイロットケースとして他のブランドとのアライアンスを組んで大会のスポンサーになりました。
「Thank you Mom」キャンペーンを展開し、P&Gの商品を主に使う「お母さん」をターゲットにブランドのイメージアップを行いました。
これによって、P&Gの米国での売上は100百万ドル以上(150億円)増加したといいます。
P&Gはバンクーバー大会での成功によって、続く2012年のロンドン大会、2014年ソチ大会、2016年リオデジャネイロ大会のスポンサーにもにもなりました。
このCMは何度見ても、ウルっときます。
3.8 Real MadridとNiveaの事例 (ブランドイメージの変更)
Niveaが取り扱っている美容や消臭剤などのパーソナルケア商品は、もともと「女性が使うもの」という印象ですよね。
そこで、レアルの選手を広告に起用することによって「男性も使う」「男性用もある」というイメージチェンジが狙いました。
非常に分かりやすい、キレイにハマった事例だと思います。

3.9 UTMBとDACIAの事例(ブランドイメージの変更)
DACIAはルーマニアの自動車メーカーで、UTMBはヨーロッパアルプスのトレイルランの最高峰の大会です。
DACIAはUTMBのスポンサーになった背景は、
ハイブリッドカーやEVの販売を開始し、UTMBの山でのイベントを通じて環境配慮へのイメージチェンジを狙う明確なものでした。
一方、DACIAは引き続きガソリンやディーゼルなどの化石燃料車の販売も行っているため、一部のトップ選手から不満がでました。
自動車は環境汚染や気候変動を助長している要因の一つであるにも関わらず、イメージチェンジに利用されるのはちょっと違うのでは、という指摘です。
「目先の利益の前に、将来を考えるのが選手や協会の責任である」「もし他に選択肢があれば、別のスポンサーを選んで欲しい」という主張が展開されました。
引き続き DACIAはUTMBのスポンサーに留まっていますが、企業の実態とイメージの大きなズレが生じてしまった事例です。

4. スポーツにとってのスポンサーシップの重要性
スポーツクラブ、イベント(大会)、組織にとって、スポンサー収入は大きな収入源です。
スポンサー収入がなければ組織の経営やイベントの運営は成り立ちません。
テレビでバンバン放映されて、巨額のお金が動いているサッカーの世界でも、スポンサー収入無くして成り立ちません。
4.1 Girona FCの収入推移・内訳
Girona FCの2024/2025シーズンの収入(選手の売買損益除く)は113百万ユーロ(180億円)でした。
2022/2023シーズンに1部に復帰して、TV放映権が大きく増加。
さらに2024/2025シーズンはチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得により、CLのTV放映権収入が32百万ユーロ(50億円)増加しました。

収入の内訳は、TV放映権が70%で最大、
商業売上(スポンサー、商品売上など)が20%、
試合当日の売上(メンバーシップ、チケット売上、VIP関連)が10%、という状況です。

4.2 欧州のサッカークラブの収入内訳
Deloitteが出している「Football Money League2023」によると、
欧州のサッカークラブの平均40%以上が商業売上(スポンサー、商品売上など)となっています。

4.3 アマチュアにとってのスポンサーシップの位置づけ
プロサッカー以外のスポーツにとって、 TVの放映権収入はほとんどありません。
そのため、スポンサーシップ収入はより重要な収入源となっています。
マラソンのイベント等では50%以上がスポンサー収入になるケースもあります。
したがって繰り返しになりますが、
スポーツにとっては
ブランドが何を求めているのか、ブランドにどんな付加価値をもたらすことができるか、を考えることが重要になってきます。
次回に続きます!
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