
こんな人におすすめ
- アスリートキャリアコーディネーターってどんな資格か知りたい
- アスリートのセカンドキャリア問題やキャリア形成に関心があって、何か力になりたい
- 指導者・コーチとしてアスリートに向き合っている
アスリートのキャリアについて関心はあるけど、自分一人では何をしていいか分からず、なかなか行動には移せないですよね。
結論、アスリートキャリアコーディネーター(ACC)は、おススメの資格です。
アスリートを取り巻く環境を理解し、適切なサポートを行うために必要なことが学べ、ACC同士の横のつながりもできます。
アスリートのキャリア形成に関心がある方、スポーツに関わる方は是非取得してください。
※HPは一時閉鎖中で、再開は2025年6月上旬とのことです。
個人的には、多くの方にアスリートのキャリア課題について関心を持っていただき、スポーツに関わる方には「アスリートキャリアコーディネーター(ACC)」の資格を取って欲しいと考えています。
本文ではACCとは何ぞや、どうやったら認定を受けられるのか、育成プログラムの内容などをご説明します。

==目次==
1. ACCとは
「アスリートキャリアコーディネーター」Athlete Career Codinatorのことで、アスリートのキャリア形成や転職、引退後の人生設計に関する支援を専門に行う人材です。
アスリートが現役で競技活動をしているうちから、引退後に直面するであろうキャリアの課題について相談に乗り、アドバイスを行うことを目的としています。
スポーツ庁の委託事業であるスポーツキャリアサポートコンソーシアム(SCSC)が運営しています。
SCSCはアスリートが安心してスポーツに取り組むことができるキャリア形成の環境を整備するため、「スポーツキャリアサポート推進戦略」の一環として、2017年2月に創設されました。
2. ACCになるためには
SCSCが主催する育成プログラムを受講して、認定課題の審査に合格すると認定ACCになれます。
育成プログラムはBasicコース3日間を修了したのち、更にAdvancedコース3日間があります。
各日程は18:00~21:30の3.5時間、全てオンラインでの開催でした。
①ACC受講対象者
ACCとして認知を受けたら、実際に活動する意思や計画がある方が対象となります。
具体的には以下のような方です。
- スポーツチームの指導者、コーチ、トレーナー、スタッフ等運営に関わる方
- スポーツ関連団体のキャリア教育担当、アスリート、元アスリートでキャリア分野の勉強をしたい方
- キャリアコンサルタント等の有資格者でアスリートのキャリア支援に関心のある方
- 企業のアスリート支援部署の方
- 人材関連企業のキャリアアドバイス担当の方
また、ACCに必要な要素として、次の7項目が定義されています。
1 | 知識・役割編 | 労働環境の概略と、アスリートのセカンドキャリアの現状を理解している |
2 | ACCの役割、活動範囲、職業理論について理解している | |
3 | 最新のキャリア理論(心理学等を含む)について基礎を学んでいる | |
4 | 技術・行動編 | キャリアシート、適性検査なども使った支援プロセスの基礎を理解している |
5 | スポーツ業界、一般企業(人事)等のネットワーク形成と連携に努力している | |
6 | 継続学習能力がある(環境変化、戦略分析、各種スキル、ケース事例) | |
7 | 対人カウンセリング、メンタリングの基礎を理解している |
②受講費用
無料です。

③Basicコースのスケジュールと概要
2024年度(令和6年度)のコースには、約180名が参加(定員は100名程度とのことでしたが)。
既にキャリアコンサルタント国家資格をもっている方、元アスリート、指導者の方が多くいらっしゃいました。
事前課題として、PROGというジェネリックスキル(=社会で求められる汎用的な能力・態度・志向)の測定をする、というのがありました。
Basicコースの受講が決定したら、PROGのIDやパスワードの連絡が事務局から届きます。
各回ともブレイクルームで4-6人のグループに分かれ、ディスカッション、ケーススタディ、ロールプレイングなどをおこないます。
内容 | 講師 | |
Day1 8/29 | ①環境理解 | 高橋義雄さん |
②ACCの理解 | ||
③キャリア理論 | 布施努さん | |
④アスリート特有の課題 | ||
Day2 9/5 | ①アスリート理解 | 川島隆一さん |
②社会人基礎力の概念理解 | ||
③ケーススタディ | ||
Day3 9/12 | ①対話の基本スキル | 網野千文さん |
②実践トレーニング(ロールプレイング | ||
③まとめ | ||
④全体まとめ |
④Advancedコースのスケジュールと概要
Advancedコースは約100人の方が参加されていました。
Day1では、Basicコースで学んだことのおさらいと、実際に職業探索をやってみるケーススタディがありました。
Day2では、アスリート、指導者、企業それぞれの視点で、アスリートのキャリアへのかかわり方や問題意識について話を伺うことができました。
内容 | 講師 | |
Day1 11/5 | ①「Can」視点の職業探索を体感する | 川島隆一さん |
②「Will」を探る | ||
③アスリートの取り組みをビジネスシーンに翻訳する | ||
④まとめ | ||
Day2 11/11 | ①アスリート視点 | 諏訪部彩さん |
②指導者視点 | 藤生喜代美さん | |
③企業視点 | 山谷拓志さん | |
④まとめ | 田沼泰輔さん | |
Day3 11/18 | ①集団へのファシリテーション | 八田茂さん |
②ネットワーク形成と連携 | 坂田賢二さん | |
③まとめ | ||
④最終課題の説明 |

3. ACC育成の目的
スポーツ庁がスポーツキャリアサポートコンソーシアム(SCSC)を通じて、アスリートキャリアコーディネーター(ACC)を育成することに至った背景、問題意識、目的について解説します。
①背景
1990年代以降、日本選手のオリンピックでの成績やアスリートを取り巻く環境の変化がありました。
特に1996年アトランタ五輪でメダル獲得数が大きく減少しました。
景気低迷の影響で企業が実業団チームを維持できず、アスリートの競技環境やキャリア問題が表面化してきたことが原因とかが得られています。
2000年以降は、各競技団体による競争力強化の取り組みによって、メダル数は増加したものの、キャリア問題は引き続き課題として残っています。
日本トップリーグ連携機構によると、「20代後半以上の女性アスリートは60%以上がキャリアに対する不安を抱えている」ことが分かりました。
以下のような点踏まえ、近年社会全体で働き方やキャリアのとらえ方が変わってきたこともあります。
- 転職や副業が当たり前になってきた
- コロナによって、働き方が多様になってきた
- 終身雇用がなくなりつつあり、日本型雇用スタイルが変わってきた
アスリートだけに限った話ではありませんが、「キャリア形成」のサポートは、単に就職先をあっせんして終わりではない時代に入ったのです。
③ACC育成に至った問題意識
特にアスリートのキャリアサポートに対しては、特別な人材を育成する必要があると考えられています。
日本特有の意識や環境もありますが、以下のような問題意識があるためです。
- アスリート自身が競技以外のキャリア形成を考える機会が乏しい。
- 引退後のキャリアを考えること自体がご法度の空気もある
- 競技団体の半数以上はキャリア支援を行っていない。
- アスリートの希望と組織以降のすり合わせの難しさ(=お互いの期待値のずれがある)。

③ACC育成の目的
アスリートのキャリアを豊かにし、社会で有効活用することがACC育成の目的です。
アスリートがトレーニングを通じて獲得したスキルや経験は、はキャリア資本であり、社会で活用すべき貴重な資本だからです。
また、キャリア形成支援は競技パフォーマンスの向上に繋がる効果も報告*されています。
具体的には、ACCは以下の役割を担います。
- アスリートが自分の強みやスキルの認識するサポート
- その強みやスキルを言語化するサポート
- 職業探索のサポート
アスリートを社会で有効活用できれば、双方のメリットはとても大きいものです。
*オーストラリアでは、キャリア形成支援を行うウェルビーイングコーチを代表チームに帯同させた結果、競技パフォーマンスが向上したとの報告あ
4. キャリア理論
キャリアに対する考え方は大きく変わってきています。
①デュアルキャリア
「デュアルキャリア」は、「人」としての人生を歩みながら、「競技者」としての人生を並行して歩むという考え方です。
アスリート引退後の「セカンドキャリア」ではなく、現役活動中から「デュアルキャリア」の形成を進めていくことが重要です。
出典 SCSCホームページより(https://sportcareer.mext.go.jp/about-sportcareer/)
②プロティアンキャリア
更に最新のキャリア理論である「プロティアン(=変幻自在)キャリア」の考え方が広まりつつあります。
要は、「転職」ありきではなく、「戦略」ありきでキャリアを形成していく考え方です。
プロティアンキャリアのポイントは3つです。
- キャリアは個人と組織のより良き関係を創る
- キャリアの成功とは、個人が「心理的成功」を味わうこと
- キャリアはいつからでも開発可能
出典 SCSCホームページより(https://sportcareer.mext.go.jp/about-sportcareer/)

5. ACCのアプローチ
アスリート自身がが、自分が出来ること(Can)、やりたいこと(Will)、やるべきこと(Must)を言語化することが重要です。
ACCはアスリートに伴走し、アスリートの目線でその言語化をサポートするのが役割です。
アスリートが自己理解を深めることで、本人が納得する進路に出会うためです。
その際には、PROG*などのツールも活用できます。
*Progresss Report On Generic Skills
具体的なステップは以下の通りです。
まずは「Can」を整理することで、アスリート自身が社会で求められる汎用的なスキルをすでに身に着けていることの理解につながります。
そうすれば、「社会の役に立てる」というマインド醸成につながりやすくます。
1)Can ~アスリートができること、得意なこと
- アスリート自身が自分のスキルを認識し、言語化する。
- プレッシャーとの向き合い方、献身性、判断力、コミュニケーション、目標設定、成功と失敗の処理・分析など →どのスキルもビジネスや今後のキャリアで活かせるもの
2)Will ~アスリートがやりたいこと
- 過去を振り返って満足度やモチベーションが高かったのは何だったか、やりがいを感じた瞬間はいつかを探り、将来のビジョンを考える。
3)Must ~アスリートが果たすべき役割や責任
- 組織や周囲から求められる役割は何か、どのようにその役割に貢献できるかを考える。
こういった、プロセスを通じて、アスリート自身が自己認識を深めて、言語化していきます。
その際には、PROG*などのツールも活用すると客観的な視点も取り入れることができ、自己理解が進めやすくなります。
*Progresss Report On Generic Skills
6. まとめ
アスリートは日々厳しい競争環境の中、競技力を高めるためのトレーニングを行っていますが、その過程で培われたスキルは社会で活かせるものです。
また、アスリート自身がそのこをと認識し、言語化することでキャリア設計につながります。
ACCはアスリートに寄り添い、そのプロセスをサポートすることが役割です。
一方で、アスリートはキャリアの不安を誰にも相談できず、孤独に戦っているのが現実です。
そういった環境を認識し、どのように手を差し延べるられるかがACCやSCSCの課題と言えます。
また、ACCの活動や位置づけを世間に認知してもらうことで、日本特有の長い練習時間・拘束時間と、指導者→選手の一方通行の指導スタイルも変えていく必要があると感じました。
やはりアスリートの身近にいるのは指導者ですが、アスリートと指導者の双方向の健全なコミュニケーションのためには「心理的安全性」の確保が重要です。
そのためには指導者の意識改革の方が重要かもしれません。
コメントを残す