
Johan Cruyff Institute(ヨハンクライフ大学)のMaster for Sport Businessコースで学んでいる「スポンサーシップ」の講義について投稿していきます。
第二弾は「スポンサー企業の視点」です。
内容としては「スポンサーシップ」の講義の宿題にもなったものですが、題材はYoutubeの動画です。
この動画では、サッカーのイングランド2部リーグに所属するのQueens Park Rangers(QPR)の
メインスポンサーであるAshvilleの創業者が、このチームのスポンサーをする意義・目的について語っています。
Ashvilleは、単なる広告ではなく、ブランド価値の向上やビジネスチャンスの拡大につながる戦略的な投資と位置付けて
QPRが持っているアセットを最大限に活用しています。
残念ながら今はスポンサーからは外れていますが、
企業がスポンサーになる理由が網羅されており、非常に勉強になりました。
==目次==
1. QPRとAshvilleの基本情報
1.1 Queens Park Rangers(QPR)の概要
項目 | 内容 |
クラブ名 | Queens Park Rangers Football Club |
ホームページ | https://www.qpr.co.uk/ |
設立年 | 1882年5月21日 |
所在地 | ロンドン西部 |
スタジアム | ロフタス・ロード・スタジアム(収容人数:18,439人) |
所属リーグ | EFLチャンピオンシップ(イングランド2部リーグ) |
最近の成績 | 2024-25シーズンのEFLチャンピオンシップで優勝 |
最近の動向 | スタジアムの収容能力の制限から、移転や改修を検討していまたが、 地元自治体の反対により実現しませんでした。 |
1.2 Ashvilleの概要
項目 | 内容 |
会社名 | Ashville Construction |
ホームページ | https://www.ashvilleinc.com/ |
事業内容 | 建設資材の供給、廃棄物処理サービス |
所在地 | ロンドン、ヒースロー空港近く |
設立年 | 2016年 |
1.3 両者の位置関係
Ashvilleの本社はヒースロー空港近く、
QPRスタジアム(ロフタス・ロード・スタジアム)は、ヒースロー空港から約18km
QPR練習場は、ヒースロー空港から約30kmの場所にあります。

2. Youtube動画
英語の勉強にもなりますよ!
3. AshvilleがQPRのスポンサーになった理由
Ashvilleは、QPRのメインスポンサーとして、クラブとの強い結びつきを活かしながらブランドの露出を最大化しています。
背景には、以下のような目的があります。
地元コミュニティとのつながり強化
Ashvilleはロンドンの企業として、地域に根ざしたブランド認知を高めることを重要視。
スポーツは、企業と地域社会を結びつける強力なツールとなります。
ビジネスチャンスの拡大
QPRのスポンサーになることでAshvilleの知名度が向上し、これまで面談できなかった企業との接点が生まれたり、ビジネスの機会が広がりました。
ブランドの露出とイメージ向上
スポーツスポンサーシップは、視覚的なブランド露出の面でも非常に効果的です。
AshvilleはQPRのスタジアムや選手ユニフォームなど、あらゆる場面でブランドをアピールしています。

4. Ashvilleのアセット活用
具体的にAshvilleは以下のような形でQPRを支援しています。
VIPルームの改修・ブランドカラー化
AshvilleはQPRスタジアムのVIPルームを改修し、自社のブランドカラーに統一。
選手のサイン入りユニホームも飾っています。
試合の日はお客さんを招待し、いわゆる「接待」の場所として活用します。
仮にサッカー好きではなくても、勝利に向かう姿は共感を生んで、お客さんとのコミュニケーションやリレーション作りに活用。
試合がない日でも使用できるため、普通に仕事をしたり、会議やビジネスイベントなどで活用しています。

スタジアム内のロゴ配置
ピッチの周りの看板、スコアボード、ベンチのヘッドレスト、コンコースのテレビなど、スタジアムの至るところにAshvilleのロゴを設置しました。
印象的なゴールが決まれば、そのあと20年も30年もそのシーンが繰り返し流され、そこにAshvilleのロゴもセットになります。
QPRが勝っていようが負けていようが監督は頻繁にテレビに映るので、ベンチのヘッドレストへのロゴ配置は有効です。
選手のインタビューはベンチで行われることも多いですね。

ユニフォームやグッズへのロゴ掲載
これは王道ですが、試合用のユニホームの胸ロゴ。
アウェイユニフォームをAshvilleカラーに変更。
レプリカユニフォームやグッズにAshvileのロゴを掲載する契約にしています。
Ashvilleのロゴ付きユニホームを家に持ち帰ることになるので、更にブランドの浸透に繋がります。

練習場、練習用キットへのロゴ
練習場の看板や、練習用ユニフォームの胸にもAshvilleロゴをプリント。
ジュニア~トップまで同じキットを着用するので、練習シーンをSNSにアップすることで露出効果も上がります。
(週一回の試合よりも、毎日の練習の方が露出効果が高い)
子供たちへの印象アップにも繋がります。
Ashvilleは当初、練習用ユニホームのみにロゴを掲載する契約からスタートしました。

VIK(Value In Kind: 現物支給)の活用
Ashvilleは、スポンサー料の一部を「現物支給」として提供。
スタジアムのメンテナンスや廃棄物処理サービスを無償提供し、クラブのコスト削減にも貢献しています。

Man of the Matchのスポンサー
年2回、試合のMOM(Man of the Match)をAshvilleがスポンサーとして支援。
ファンとのエンゲージメントを強化しています。
QPR公式サイトでの露出
QPRの公式サイトにスポンサーとして掲載。
QPRのSEO(検索エンジン最適化)は高く、オンラインでの認知度を向上させています。
※スポーツクラブのSEOは比較的高い
スポンサーシップの柔軟な戦略
Ashvilleは「QPRのチャンピオンシップリーグ(2部)でのスポンサー」に特化した戦略をとっています。
仮にQPRがプレミアリーグ(1部)に昇格した場合、メインスポンサーからは降りる意向を示しています。
その理由は、
- プレミアリーグのスポンサー料を負担する余裕がない
- 国際的な露出を必要としていない(中国市場などへの進出予定はない)
※プレミアリーグは海外にも放映される一方、スポンサー料は跳ね上がる
一方で、地元クラブとしてQPRとの強いつながりは維持する方針で、別の形でのスポンサーシップは継続するとしています。

5. まとめ
この事例では、単に「ユニホームの胸の広告スペース」への広告出稿ではなく、
QPRが持っているさまざまなアセットをAshvilleが意図をもって戦略的に活用しているか、がよくわかります。
・地域密着型スポンサーシップの価値 → 地元企業が地元クラブを支援することで、ブランドの信頼性が向上
・VIK(現物支給)の活用 → 金銭的な負担を軽減しつつ、企業の強みを活かせる
・柔軟なスポンサー戦略 → クラブの成績やリーグに応じて、適切なスポンサーシップを選択
参考になれば幸いです。
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